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《后宫•甄嬛传》译作(节选)

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                                                                                         第二十章—-二十一章

                                                                                                                            北外日语系093

甄(チン)嬛(ファン)の自叙伝

登場人物

甄嬛(チン・ファン)称号「莞」、品位は従三位の婕妤。

沈眉荘(シン・メイソァン)甄嬛の幼馴染みの親友。帝の御寵愛を争うため懐妊を詐った疑いで、品位は正七位の常在に降格し、禁足中。

慕容世蘭(ムーヨウ・シラン)称号「華」、品位は正二位の妃。甄嬛と沈眉荘の敵方。

曹琴默(ツアオ・チンモウ)温宜姫宮の生母。品位は従三位の婕妤。慕容世蘭の味方。

馮若昭(フン・イオシオ)品位は従二位の淑儀。甄嬛と沈眉荘の味方。

槿汐(チンシイ)甄嬛に仕える女官。

芳若(ファンイオ)禁足中の沈眉荘の見張り女官。

含珠(ハンシュ)馮若昭に仕える女官。

(制作者:莫倩雯)

☆☆☆

近頃のような日々が過ぎ、静寂で綺麗な夕方の景色が突然に訪れた。空色が段々暗んできて、女中の流朱と浣碧をひっそり呼んできた。手早く浣碧の衣に着替え、絹の花が飾られた簪で髪をとめ、顔の大部分を隠した。そばにいる二人は困った顔をしている。周りには誰もいないので、耳打ちでこっそり教えてあげた。「これからは存菊堂の眉庄に会ってくるわ。」

それを話を聞いて流朱が驚いた。「お嬢様、どうして急に参ります?お許しが無いと誰も眉庄様のところに行ってはならないと殿下がおっしゃったのでは?」と言った。

「おやめになったほうがいいわ。お嬢様はまだ何もご準備なさっていませんが。」と浣碧が言い添え、止めようとした。

私は襟の紐結びを自分で締めて、こう言った。「今準備しているじゃない?浣碧はわが家で生まれ、そしてずっとあたしの世話をしてきた。宮中では、浣碧の顔を知る人は少ない、印象もさほど残らないはずです。あたしは浣碧の名を使い、槿汐と一緒に存菊堂へ、食事をお届けする女中だと言えばいい。存菊堂のほうはもう手配ができているわ。暮れ方、歩哨を交替する時、機を待って中へ忍び入る。計画は万全だわ。」

流朱はやはり心配だ。「お嬢様、万が一発見されたら殿下をだますことになり、罪を問われます。貫禄を削減するだけでは済まないのでございます。それにお嬢様は今、大変殿下のお気に召されまして、このようなまねは、どう考えても危ないわ。」

私は鏡の中の自分を見た。容貌はもう昔どころではなかった。下を向いて歩けば、気づかれるはずはない。「殿下に好かれようと嫌われようと、あたしは行く。今夜、殿下は安美人のところにいらしゃった。あたしにとっては絶好の機会だわ。」そう言ってから、みんなに言い付けた。「浣碧奥の部屋で身を隠しなさい、人の前で姿を現さないように。流朱は母屋で見張って、誰一人入れないように。あたしは槿汐と行ってくる。」

そう話しているうちに、私は表の門まで出ていた。まだ驚いた顔をする流朱と浣碧を置いて、外に出て行った。

(译者:昌昊)

☆☆☆

馮淑儀[1]と静かに雑談をするうちに、空は暗くなっていた。塋心堂の様子を推定していた。すべてのことが整っているが、華妃と曹婕妤がすきに乗じ、何か騒動を起こそうではないか、どうしても心配でならなかった。

向こうに座っている馮淑儀は穏やかに姫宮と皇太子のことをこまごまと話していた。子供たちのエピソートが、不安な心を徐々に慰められた。私は馮淑儀のことをじっくり眺めた。静かで穏やかな女子である。それほどの美人でもないし、頭が良さそうにも見えない。普通の名門令嬢の身振りで、後宮の妃たちの中では目立つ者ではない。しかし、容貌が端正で、愉快の時も不快の時も上品で静かな感じが与えられ、世間並みの淑やかさと優しさがある。彼女はこのような噂と是非のない女子だからこそ、暗闘の満ちた後宮の妃たちに埋もれてしまったのだろう、私はふと思った。馮淑儀は入宮して既に年数が長い。妃に次ぐ身分に至ったが、同じ等級に陸昭儀と李修容がもおり、その次ぎに欣貴嫔が後をついている。しかし、彼女の目には、言葉で表現できないもの静かで穏やかなものがある。玄凌[2]が彼女に対する態度は偏愛に至るまではないが、かなり礼遇であり、とうに寵愛の失った陸昭儀と李修容などは比べものにならないのだ。大体このような女子は、自分なりの香りを少しずつ発散するタイプで、才気を露出せず、ゆるゆると人の心に入っていく。

私はにっこりと微笑んだ。宮中では、才気を隠す人は少なくない。例えば目の前に座っているこの女子。もし彼女は長所が何もなく、必殺技一つないなら、華妃の下で淑儀の名を何年間も保全することができないのだ。

(译者:刘美含)

☆☆☆

殿外から騒ぎ声がした。沢山の人が一緒に上がり込んできたようで騒がしい。だが、馮淑儀の昀昭殿に向かってくるのではなく、隣の存菊堂へ行ったようだ。

気づかれないように微かに微笑む。やっぱり来たね。そう思っていながら、

「何か大事でもありましたのかしら」と、一言だけ聞いた。

馮淑儀は意外と落ち着いてる。執事の姑姑(ぐぐ)(等級の高い女官の呼称)含珠が報告に来た。

「華妃様がいらっしゃいました。婕妤様のところの女官槿汐が侍女を連れ、お見舞い品を眉荘様に届けられ、それで誤解を起こされたようでございます」

「そちらの所の者でございますか」と、

馮淑儀が怪訝そうな顔で私に聞いた。

「槿汐にものを届けてくるよう頼みましたが、大したことではござらぬと存じます。今顔を出してもいいんですが、ただ、場所も場所で、一層面倒なことになるでしょう」と、平気を装ってそう答えた。

私と華妃の間にわだかまりがあるのを馮淑儀は知っている。

「急いで顔を出すことはございません。この状況では華妃様も私たちのお相手になさる暇がござらぬでしょう。もう少し様子を見てから出てもいいでしょう。」

私は馮淑儀と窓際で外の様子を聞き入っていた。芳若の慎重な声である。

「身の回り品や食べ物など、沈常在にお届けするようと槿汐に頼まれました。品の数が多い故、棠梨宮の侍女を2人連れて来られ、客室までお届けしました。沈常在にはお目にかかりませんし、挨拶もいたしませんでした」

「芳若の申したとおりでございます。婕妤様の言い付けをお受けして、お届けもので参りました。殿下の命にお逆らいしませんでした。眉荘様にお目にかかっておりません」

槿汐も慎重な口調で答えた。

華妃は笑いながら聞いた。気力のないような声に殺気がみなぎる。

「槿汐、確かそなたが二人を連れてきたと言いましたね。そこに1人しかいないのではございませんか。もう一人は?まさか大事な仕事をしている最中で私に会う暇がないのではございませんか」

「そ・・・それは棠梨宮の侍女の品児でございます。先に帰ってもらいましたからにございます。」

槿汐の慌て声が伝わってきた。

(译者:陆一菁)

☆☆☆

温宜姫宮を利用して私に罪を被らせる、この仕業の張本人は曹琴默でないなら、華妃に違いない。ところが、過去の種々からみれば、曹琴默はこの身を痛めた唯一の姫宮をたいそう可愛がっており、わが子に害を及ぼすまで殿下の寵愛を得ようとする母親がいるとはとても思えない。一方、華妃は温宜姫宮の生母でないため、当然心から可愛がるわけがない。慎徳堂でのことをよく考えると、意外にも裏事情があるものだ。ただ当時の私はちっとも気づかなかった。二人の間には、恐らくわだかまりが生じたのかもしれない。

とすれば、ますます事情が入り組んでいくだろう、とわたしはにやっと笑った。

しかしながら、それは単なるわたしの推し測りに過ぎない。曹琴默と華妃のもつれはさておき、眉荘のことこそ今の関心事である。

外の騒ぎがますます激しくなり、槿汐と芳若は跪いたままで闖入しようとする華妃を阻んでいる。私は含珠に目配せした。さすがに宮内の上臈女官だけあってすぐにも暇を乞い、裏門より殿下のいらっしゃる儀元殿へ急いでいった。

そばにいる馮淑儀が含み笑いをしながら言った。

「どうもお芝居が好きなようだね」

「観客はお芝居を見ており、お芝居も観客を見ております。今は観客でいるが、じきに舞台に立っていくかもしれませぬ」

と、私も微笑みながら言った。

「婕妤様のお芝居を見ると、痛快で気持ちがすかっとします。私のような者はとても力になりませんが、婕妤様のためなら是非とも力を尽くしたいのですが」

馮淑儀は聞こえないほど小さな声で話しかけてきた。私は微笑んで、

「それはどうもありがとうございます」と、お礼を言った。

彼女はふと軽く嘆き、ぼんやりと窓外を眺めながらかすかな声で言った。

「私にも一度妃に封じる機運がございましたこと、ご存知でしょうか」

さらに声をひそめて呟いた。

「恐らく、あのお方がいらっしゃるかぎり、私は一生、この狭き肩身で生きてゆかねばならぬ」

「いいえ、そんなことないわ。妃はもちろん、従一位の夫人も無理ないことにございます。淑儀様のような心優しき方は、絶対妃になるわ。」

と、声が低いが、私の言ったことははっきりと淑儀の耳に入った。

すると、彼女は安心したかのように微笑みを浮かべ、いつもの和やかさと穏やかさに戻った。

「今のお言葉をいただいて、もう案ずることなど何一つございませぬ。婕妤様には栄華を極まる将来が待っておられる、それは私どもが及ばぬものでございましょう」

微笑みを顔にこわばらせたまま、私は淡々と返事した。

「お言葉ありがたく承りますわ」

(译者:莫倩雯)

☆☆☆

私は合点して笑い、馮淑儀の後について出てきた。

私は満面に微笑みを浮かべてひざまずいてお辞儀をした。すると、玄凌は手を出して私の手を引き、「君もいたのか?」と言った。

「淑儀様としゃべって退屈を紛らしています」華妃に頭を下げて礼をして、「華妃様、ご機嫌よ」と微笑みながら言った。

華妃は突然私を見て、顔色を急に白く変えた、空気を吸い込まんばかりで、「君はなぜここに?」と何となく言った。

私は恭しく答えた、「私は先言ったけど、華妃様ははっきり聞こえなかったか、私は淑仪様のお供をしているよ。」

華妃はほとんど信じられなくて、その瞬間彼女は視線を槿汐を通して存菊堂に向けた、先の驕りの色が跡形もなく消え去った。

槿汐は私にそう言った、「僕(やつがれ)あちこち探したが、淑儀様のところに来たのか。僕は主が申しつけた物を眉庄主に送るしかない。」

私は微笑んで華妃に:「先、馮淑儀の宮殿で大きな声を聞いて、何か重大なことがあったではないかと思って、勇気がなくて外に出なかった、本当に失礼した。」といいながら、何かに脅えたかのように手で胸を撫でていた。

「華妃は宓秀宫に居なくて、ここに何をする?」玄凌は目線がいつものように暖かいが、話に何気なく無愛想のニュアンスが隠されている。

華妃は無理闇に落ち着いたふりをして、「勝手に存菊堂へ処罰された妃嫔を見舞にくる人がいると聞いた。そこで、わざわざここに来た。」

玄凌冷淡な目先で彼女をにらんで、「皇后の命令があるか?」

華妃は益々窮迫するようになって、微かに頭を許して、「私は急いで駆けたので、皇后の命令を取る暇がなくて…」

玄凌の目先にすでに恐ろしきが浮かび、「沈常在を処罰した時に、朕の命令がなければだれでも沈氏を見舞できないと確かに命令を下しただろう。」と冷淡に述べた。

(译者:李丹)

☆☆☆

玄凌は既に我慢できなく、「自分の部屋に帰れ!これ以上いざこざを起こすな。」と面倒くさそうに言い捨て、華妃は震えた声で「お許しをありがとうございました」と、丁寧に叩頭しながら御礼を申し上げた。

立ち去ろうとした玄凌は、また頭を振り向いて華妃に、「これから温宜姫宮に会うな、朕の娘によくないから」と言葉を付け足した。悔しさと怒りの余り、華妃は今にも泣き出そうになったが、何とか我慢した。私は頭を横に向けたが、多少胸がすかっとした。

存菊堂に禁足された眉荘が聞いたら、多少喜ぶだろう。

玄凌が帰ろうとした時、馮淑儀が突然「一言申し上げたいことがございます」と殿下に言った。

「言ってよろしい」と、玄凌は言った。

馮淑儀はこう言った。「今、沈常在は存菊堂に禁足中です。私は畅安宮を管掌する以上、殿下と悩みを分かち合うのも責任に思われます。ここは宮中ですし、沈常在も禁足中ですから、ここの守衛を半数ほど減らしてもいいのではないか思います。宮中の守備力をここに費やすのももったいないし、畅安宮には他に妃と嫔も数人おりますから、これほど多くの守衛がいると、不便で不安だわ。」私は有難く淑儀を見た。淑儀はやはり物静かな表情で、等級の低い妃嫔のことを言っているようだった。

玄凌は少し考えてから、「よし、そうしよう。ただ沈常在がお前の宮殿にいるから、気を使って面倒みろ」と言った。

「はい、承知しました」と、馮淑儀は喜んで返事した。

私は玄凌を表の玄関まで見送った。玄凌は私の手を軽く握って、「お前に累を及ぼさずに良かった」と言った。

私は首を振って、「そんな落とし穴に落ちるわけがないわ。勅令に違反するなんか考えたこともありません」と言った。玄凌の眼差しが優しくなった。私は彼に近寄って、「殿下は国務で忙しいから、私は既に人参のスープを用意させ、儀元殿まで届けてもらいました。ぜひそれを召し上がって元気を取り戻してください」と言った。

(译者:苏淼)

☆☆☆

「いつもやさしいね」と殿下は微笑んで言ってくれた。

私は顔を赤らめて、殿下をお車まで見送った。

身後ろに立っている華妃の目はまだ赤色がして、目線が矢のように鋭くて、「私がうっかりしてしまい、なんとあんたの落ち穴に落ちた。」と恨み気味に言った。

私はただ礼儀に従って、「華妃様のお話はよく分かりませんが、けど、華妃様がうっかりしたからとは思わない。華妃様は賢い人で、『三国誌』にある楊修が策士策に溺れるという物語がご存知でしょう。」と返事した。

華妃は手をしかっりと握って、「はい、君は悪巧みに上手ですよね。君を早いうちに処理してなかったのは他人のせいではなくて、すべて自分の間違いです。」と冷たく語った。

私はさわやかな春の風が顔を擦ったように微笑んで、話すときに耳にかけている金の飾り物が首にぶつかって、「華妃様は冗談を言わないでよ。後宮に住んでいるみんなはもともと殿下のお世話をするために集めてくる姉妹です。姉はなんでこんなう冷たい話をしたのですか。皇帝の耳に入ったら、また怒られるでしょう。そして、華妃様の身分にも合わないでしょう。」と言い返した。

華妃は、身辺に仕える侍女も空気を読め、「もう遅いし、そろそろお休みになってください」と説得した。

私は彼女との会話を続けたくないし、「華妃様、いってらしゃっい」ときっぱりといった。

殿下のそばの人が手早くて、馮淑儀のところから帰るときに、存菊堂を守る侍は半分ぐらいしか残っていない。

槿汐が私の手を支え、ゆっくりと出て行った。夜が深めてきて、わざと遠回りして、また上林苑の仮山の後ろの部屋に戻り、女官の服に着替えて、こっそりと槿汐のそばに隠れて存菊堂に帰った。

ところで、お守りの人たちが交替する時間になった。華妃のおかげで、みんなはもう疲れるし、玄凌が半分のお守りを撤退させたので、残りの人もずいぶん怠ってきた。

(译者:吴密)

☆☆☆

光陰矢のごとし、一年もたたず、菊の花が散りまた咲き始めたが、以前のような光景はもう存菊堂には見られない。

 女官の靴底はやや薄く、落ち葉が散らかる草むらに踏み出すと、微妙にひき潰すような触感がした。秋が来ると、樹木のまばらな匂いがかすかに鼻に入り、月の光の下で歩けば、草や木の露に靴が湿られてしまう。眉庄は寵愛を失ったため、存菊堂の下女たちが一刻の隙間も逃さずに、仕えることに怠けている。今の存菊堂は、雑草がむやみに生え、花びらが散り敷き、秋風が吹くと、庭が一層寂しくなっていく。新眉のような月だけがこのもの寂しい庭に光を照らしている。

 内室へ曲がると、門に立っている眉庄が目に入った。遠くにいる彼女は私に向かって手を伸ばし、すぐ涙を浮かべた。私は急いでそちらに向かい、涙が落ちていないうちにしっかりと彼女の手を握りしめた。

 眉庄の手は非常に冷たかった。私は思わず涙がこぼれて、一言も口に出せなかった。眉庄もすすり泣いて、私のことをしっかりと見てから、ようやく笑顔を見せてくれた。「元気にやってるんじゃない。芳若はいつも元気だと言っているけれど、私はどうしても信じられなかったわ。でも、今のあなたを見て、ほっとしたわ。」

 私は笑顔を作って、「私は元気よ。でもあなたのことだけが心配だわ。」と答えた。

 私たちが話している間、芳若はすでに退いており、門を見張ってくれた。眉庄は昔のような豊満さがなくなり、骨と皮しか残らないほどの手で私を連れて、内室に向かった。

 中に入ると、一種の枯れた匂いが空気に漂っていた。私が驚く様子を見て、眉庄は苦笑をもらしながら、「ここはもう昔の存菊堂ではなかったのよ。」と言った。

 私は信じられなかった。「話はそうだけれど、あなたが常在であることは変わらないよ。なのに、宮中はこんなに衰えているなんて、あの下人たちは本当にひどい。」

 眉庄は室内の蝋燭に一つ一つと火をつけ、「今の華妃の勢力は絶頂点に至る。あの下人たちは日和見のものばかりで、華妃の媚を売るため、手段問わずに私を踏みつけている。もし芳若がいなければ、おそらく私はとっくに死んだかもしれないわ。」と言いながら、涙がぽろぽろと落ちた。その涙がちょうど蝋燭の火に当たり、「ツー」とかすかな音を立て、鼻にむせるほどの白煙が湧き出した。

(译者:肖婉晴)

☆☆☆

暫く立ってから眉庄が少し落ち着いて静かに話した。「あなたは私のことで累を及ぼさなかったことを芳若から聞いてやっと安心した。幸い陵容がいるから、あなたも一人では力不足とは言えない。」彼女は少し間を取って、窓外の面倒を見る人がないため地面に散った菊花をぼんやり見ていた。少し時間が立って正気を取り戻した。「殿下が陵容のことがとても好きかな。」って訊いた。

私がちょっとぼんやりしてすぐに「とてもとは言えないが、きっと曹婕妤のような人たちより好き」って答えた。

眉庄が「そうね」って返事した。「それは悪くないだ、しかし陵容は臆病者だから、殿下に好まれても何かあった時にあなたが決めるだ。」

私がはいって答えた。彼女の細い体を見て「奴等のために怒る必要がない。到底自分の体が一番重要だ。今日は外の話を聞いたか。あなたのために八つあたりした。」と思わずに言った。

眉庄が頷きながら、「知ってた。しかし彼女が簡単な人ではないらしい。」

私は仕方なく息を吐いた。「事情に応じて決めるしかないだ。」

私の視線が下に向いて、眉庄のお腹を見た。あまりにも好奇だから聞くことにした。「その日、あなたが妊娠したことは一体どういうことか。」

眉庄が無表情で笑った。「私が妊娠のフリをしているってみんなが言っている。あなたまでそう思うか。」眉庄が思わずに自分のお腹を撫でいた。「殿下が私のことが大変好きなのに、却って妊娠のフリをする必要があるか。」と話した。

私は淡々と話した。「貴方ならこんな下手なやり方をする必要がない。殿下に好まれるから、妊娠するのも時間の問題だ。余計なことをしないはずだ。」

眉庄が長く息を吐いて、分かればいいって話した。

「お姉さん、彼らはわざとお姉さんが妊娠したと思わせる。殿下に好まれた後にお姉さんが殿下の寵愛を得るために妊娠のフリをしていると証言する。」

(译者:赵岩)

☆☆☆

眉荘が妊娠したことであんなに喜んでいたことを思い出すと、私が思わず気が重くなった。眉荘がどんなに子供がほしっかったのだろう。子供さえいれば、長い夜のさびしさを慰める人もいるだろう。そして、殿下の寵愛を繋ぎ止めることができる上に家族の光栄を固めることもできる。

 私が眉荘を慰めようとしている。「もうここまで来たので、これ以上言っても無意義だ。私まであの者たちの罠に引っかかれたところだ。殿下はもともと宮中の大権を再び華妃に任せるつもりだったが、われわれが今日停止させないと、これから私と陵容の将来が心配させられる。」

「私は何でもわかっている。」眉荘はものさびしそうにこういった。「私はもう使い物にならない。今はできるだけあなたたちを巻き込まないように。」眉荘は顔を背けて涙を拭いた。「私を今の窮地から救うことが出来ればもっともよいだが、もし出来なかった場合も無理をしないでほしい。あなたも気をつけたほうがいいよ。一人で大変なんだから。私と同じ窮地にならないで。」

 私の胸が熱くなり、一層泣きたくなるが、眉荘の悲しみを深めないように必死に我慢していた。

 暗い宮殿の中で、古い木の葉っぱが網戸の上で揺れていて、その様子はまるで幽霊がやせこけている手を伸ばしているように見える。蟋蟀の鳴き声が深夜の中で一層肌寒く感じられる。心は思わず慌てるようになった。

 私は必死に何かを説明しようとしている。「陛下は、ただ。」だが、これ以上はもう何もいえない。玄凌が眉荘に対する厳しい処罰は私の心を傷つけた。

 唇がなくなると歯も寒くなると同じように、私たちの利害は共通している。私はやっと心の底の失望と哀愁を抑えきれなく、一字一字で言った。「陛下は、確かにあなたの良き人[3]ではない。私たちが昔神様に願っていたことは永遠に現実になれないかもしれない。」

 「良き人。」眉荘の冷笑はすこし耳障りだ。「斉の人の妾たちまで良き人の本当の意味を知っている。それはは女の一生を託すもの。」眉荘は唇を噛んで怒っていた。「あの人は、あの人は私たちの頼りになれるものか。」

(译者:陈曦)

☆☆☆

秋の気配が濃くなっていった。夜になると、幾重も続く紫奥城の宮殿に薄い霧が広がっていき、まるで上等な生糸で作られた薄い帳が一片一片柔らかく覆ってきたようだ。

 夜回りの護衛をそっと避け、私は曲がりくねった小道に沿って、蓮池の奥まで辿り着いた。そこに小連子が用意しておいた小舟があり、乗り込みながら、小船の軽く揺れで水面に波が広がっていった。船が妙に重く感じられたが、それを気にせず、係船の縄を解き、船を漕ごうとした。すると、急に護衛が通っている足音が聞こえて、私は慌てながら、小さな船室に潜り込んでいった。

 足元がつるりとぶらついて、何か暖かいモノを踏んだようだ。私が驚いて叫ばんばかりのところ、そのモノは「うわっ」と喚いていた。

 知っている男の声だ!と思って、尋ねようとしたら、岸から「誰だ!」という怒鳴り声が聞こえてきた。

 ばれたら、今日の工夫が台無しになるだけではなく、眉庄も掛かり合いになってしまうと、どきどきしながら、私は心の中で悲鳴をあげた。

 すると、暗闇からびっくりした目が見えてきた。その人が片手で私の口を覆って、体を船室の外へ乗り出し、「誰が俺様が寝ているとこ騒いでんの?」とだるそうな声で言った。

 そんなに大きな声ではなかったが、護衛たちの先ほどの勢いが完全になくなり、「親王様がいらっしゃるとは存じなく、お邪魔して誠にもうしわけありませんでした。どうかお許しください」と作り笑いをしながら謝る人もいた。

 玄清がうるさがりそうにあくびをして、「邪魔すんなよ、どけどけ!」と手を振りながら愚痴をこぼした。

(译者:范立颖)

☆☆☆

私は口を噤んで、緊張感を紛らすように慌てて頷いた。

彼は力を入れて櫓をこぎ、すると船は徐々に岸から離れ、緩いスピードで太液池の中央に向かった。遠く所に着くまで、やっと心の鼓動がだんだん収まった。

紫奥城のある京都は太平行宮と比べより南の方に位置する。そのため、初秋がまいても暑気はまだ残っている。太液池の蓮の花も翻月湖より咲く時期が長い。しかしながら到底九月が迫ってきた。太液池にどこまでも咲き乱れる十里の蓮の花でも、全盛期から消滅に向かう退廃的な甘い香りがする。かえって蓮の葉、菱の葉、さらに葦がほのかな芳しいを立てて、格別な趣がある。十里の蓮の花はそよ風にゆらゆらと揺れる。庭園も楼閣も霧の中に見えたり、消えたりする。遠い所にある赤い錦と灯篭の影が湖に映され、水の動きに従って、まるで流れる光のように美しい。周りの水面に穏やかなさざ波が立て、その中心にいる私は星屑に取り囲まれたように、幻の海に酔いしれた。

「蓮の花托も少なくなる八月末の時期になっておりますが、上様はどこからこのような新鮮な花を見つけられたのかしら」と、船尾に蓮の花が積もっている光景に気になるので聞いた。

「今年最後の花かもしれない。深夜に湖のまで訪れやった見つけた。水鳥たちにも迷惑をかけたなあ。」と彼は船を漕ぎながらさりげなく答えた。玄清の細長い姿は水面に映り、風に吹かれた松のように揺れる。

「上様は蓮の花がお好きですか」と清める月の光を眺めながら聞いた。

「予独り蓮の汚泥より出でて染まらず、清漣に濯はれて妖ならずことを愛す」と微笑んで言った。

水の音は私と彼の断片的な会話を綴った。船が去った後、分けられたコウキクサはまるで離れたことのないように、再び一つになった。

(译者:葛立嘉)

☆☆☆

私は軽く頭を振り、ゆっくりと「もし西施は呉の国を亡ぼしたら、今度越の国を亡ぼしたのは誰でしょうか。」と言った。

「婕妤は物がわかる人はずだが、どうしてこのような話を口にしたんだ。」と玄清が納得にいかなかった。

 ハスの花を手に取ると、芳しい香りが心にに染み渡ってきた。「西施は範蠡の恋人ですが、範蠡に呉王夫差に献上されてしまいました。これはいかに悲しいことでしょう。その後、彼女はこのことを気にせず範蠡と太湖で船遊びをしたとしても、未練が残るわけではないと思いますわ。美貌だけに恋人に裏切られ敵の呉王夫差に捧げられてしまい、老後再び範蠡の所に戻ったっていうことは、可哀想でしかたがありません。」

 この話を聞くと、呆気にとられた玄清の瞳は流れ星が落ちたようにきらきら輝いた。彼は微笑みながら、「今まで世間の人は西施のことを悲嘆したり呉王夫差のことを非難したりしてきたが、範蠡のことを責めたことがなかった。僕さえ一度もこのような高見を聞いたことがないなあ。」と喜びを禁じえなかった。そして、急に船の櫂を放して「婕妤の英知に感服した。」とお辞儀をした。

 玄清の突然な振る舞いで船がゆらゆらと揺れた。びっくりした私は船縁を掴み、「愚見ですが、お恥ずかしい限りです。」と言った。

 船が揺れいているせいか、彼の服のボタンから何かが落ちてしまった。しかし、彼は気づかないまま、「確かに婕妤の言った通り、範蠡は薄情者だ。呉王夫差は命をかけて西施のことを愛したのになあ。」と感慨した。

 「その通りですわ。呉王夫差は命を失うまで大きな代償を払って、西施を愛しました。ただ愛は帝王にとっては贅沢なものですわ。」と頭を頷いた。

 「愛されず寵愛を受けてばかりいることは女にとっての侮辱だ。」

 彼の一言を始めて耳にした私は急に胸がキュッとし、呆れてしまった。眉庄の話と彼の話が織り交ぜて心底に感動の気持ちが湧き上がった。

 王宮の女は皇帝に寵愛されることだけを願っている。私は希望を抱えたとしても、皇帝に愛されることが不可能だとわかっている。

 玄清は何かが思いついたように急に振り返って、私の顔を見つめた。「この話はどうも婕妤の本音のようだなあ。」

 船は微風に乗って群れとなったハスの花の奥に突っ込んだ。月の下で、コサギがぴかぴかと光る水面を掠め、時に鯉が川から飛びあがった。私は黙り込んだ。暫くしてまた微笑んで「気のせいですわ。私はただ西施の短い一生を哀惜するにすぎません。」と言った。

(译者:孔鑫梓)

☆☆☆

香り袋を閉じて返そうとしていたところ、袋の底にある紅色のものに気づいた。すると中から取り出し、月の光で見たら、呆れてしまった――手のひらに載せているのは、自分が除夜に倚梅園の梅の木に掛けた小さい人型彫刻だった。その像のにっこりしている様子は小允子の熟練した技によって、非常に精密に彫られているので、すこしでもよく見たら、誰でもすぐそれは私のことだとわかるはずだ。なんて意外なことだ。私はどうしたらよいかわからなく、茫然とした。ただ、『山鬼』の曲だけが頭にぼんやりと響き、向こう岸から幻の川を渡って伝わってくるように聞こえる。その声が何度も繰り返して彼がさっき言った「山中の住人は杜若の如し」の句を歌っている。

彼は舟をこいでばかりいて、時には月光の美しさを賛美していた。しかし、私は心細くなり、さっき私と放談していた人と私の像を杜若と一緒に大事にしまっている人とは同一人物なのか、その瞬間確信できなかった。ぼんやりとしていたら、髷に飾っている金の薔薇の簪が腕に落ち、痛くてやっと意識を取り戻した。その金の薔薇の簪は先日玄凌様から賜った宝物の一つであり、工夫されているので、非常に気に入り、女官姿のときもはずしたくない。けれど、その簪はつるつるし、髪の毛が弛んだら、落ちてしまった。簪を見つめ、ぱっと自分の玄凌様の愛妾である身分を気づき、ついに知らないふりをすると決めた。気持ちを整って杜若と像を香り袋に戻し、落ち着いた声で「玄清様、御香り袋を落としたようです。」と呼びかけた。

彼は香り袋を受け取り、「どうもありがとう」と言い、大事に懐にしまい、開けられかどうか全然気にしていなかったようだった。私に見られたかどうかは重要ではなく、香り袋の中身だけが大事のように感じた。

(译者:兰钰珂)

☆☆☆

小連子と槿汐はとっくに渡し場の曲がり角で待っていた。玄清が渡し場に立ち私とともに歩んでくるのを見て、小連子と槿汐はさすがに一瞬驚いた。しかし槿汐はやはり賢く、軽く御礼をし、私を支えながら棠梨宮へ向かった。

「さきほどそなたたちは私以外に誰にも会えなかったわね。」と私は小声で言い、槿汐は「はい、奴婢はただ馮淑儀のところから主人様を迎えてきただけでございます。」と囁いた。小連子は身のあとにつき、ともに棠梨宮に入った。

小允子がみんなを飲緑軒にほったらかしにしている。私は黙々と内堂に戻り、安眠の服装に着替えてから、喉が極めて渇いていることに気付いた。すると声を出そうと思えば、小允子はすでにお茶を持って入った。一口を飲んだら私は嫌になり、「別のもの持ってきなさい」と言った。

小允子は「台所にツバメの巣が用意してございますが、いかがでしょうか。」と追従笑いを浮かべた。

私は頷き、「浣碧に持たせてきなさい」と命令した。

小允子は一瞬呆れ、少し戸惑ったら、到底聞く勇気がなく、浣碧に持たせることにした。

浣碧はツバメの巣を運んでき、私はちゃんと座っている様子を見て、顔色が微かに変わった。「主人様の今回の旅は順調なものでございましょうか。帰りが遅く奴婢は大変心配しておりました。」と気遣いそうに口を聞いた。

私は心底から嫌悪感を感じ、彼女をしばしにらみつけた。浣碧は頭を下げ、びくびくして私の顔を見ようとしなかった。私は「順調どころか、全く爽快だ!」とカーと笑い出した。

浣碧は首を上げ、「陛下は眉庄様を解放したのでございますか。」と少し驚いた顔で聞いた。

「そんなことはない。」私は彼女の顔をじろっと見やり、ゆっくりと言葉を発した。「陛下は華妃を叱責し、温宜姫宮まで会わせないことにしたよ。」そして「陛下はもともと華妃に六宮の政務の補佐役を回復させたかったが、現在は恐らく華妃は自分自身が危ない境地になっている。」と嘆いた。

(译者:徐骁蓓)

☆☆☆

「お嬢にそんなにおっしゃられて、まことに恐縮です。」と、浣碧が地面を見ながら小さい声で言った。

わたしが立ち上がって彼女のまわりをゆっくりと回った。それから急に彼女の前に立ち止まって、その顔を軽く撫でて、「よく見ると、うちら顔似てるよね。」と嘆いた。「だが、あることでは仲良く見えるが、実はそうじゃない。幼馴染でもみかけによらぬものだな。ほんとにがっかりするわ。」

浣碧は突然厳しい顔をして、「お嬢の意味がわからない。」と作り笑いをした。

「よくできてるわね!二股をかける奴がまわりにもいるって知ってるのに、ただ今度お前とは思わなかった。」と冷たく言った。

ずっと彼女をやさしく扱ってきて、このように顔をこばらせて叱ったことは一度もなかった。浣碧が驚いて、「お嬢!」と叫んだ。

私は取り合おうともしなくて、「あの日、水緑南薫殿で曹婕妤は皇帝が六王の名を以て私に合うことでそそのかした。その時はすでに周りの親しい人に漏らされたと疑ったが、お前とは思わなかった。その日流朱が私と一緒に行ったので、そのことを誰よりも詳しく知ってるはずだ。彼女は率直でお前のような穏やかな人間ではないし、他の女官と雑談するとき口が滑ってしまったかもしれないと思った。だが今日、私が棠梨宮から出るや否や、ある人が知らせに行った。どうにもわからないが、なんで私の存菊堂に行くことが華妃に知られたの。周りの人に漏らされたのだろう。」と言い続けた。

浣碧はだんだん落ち着くようになって、顔を上げて私を見ながら、「お嬢が梅庄様のところに行くことを知ってるのは浣碧だけじゃない。なぜ浣碧だと思うの。まさかお嬢が浣碧に偏見を抱いているの。」と言った。

「お前は確かに注意深いが、残念ながらあることをおろそかにしてしまった――」と私が微笑みながら言った。

(译者:韩诺)

☆☆☆

「もちろん浣碧のおかけだ。おそらく私たちが協力して例のことをしたと思っている華妃殿は今あなたへの恨みは骨髄に徹しているだろう。」微笑んで、浣碧を見かけて、「ホントウによくできたね。」と言った。

浣碧はぼんやりとじっと私を見つめて、しばらくして「殿のご心算に及びません」と言った。

浣碧をよく凝視して、また柔らかい声で嘆いた。「私、よく浣碧の落ち着いた態度をほめたね。しかし、今のところの状態を見て、やっぱりだめ。成功に夢中し、付き合いの落ち着かない浣碧を官吏のお嫁とすることに心配よ。このままじゃ、官吏の正妻としても、本分を守らない妾を抑えないだろう。」

私の話を聞いて、浣碧は聞き取らないようにぼんやりして「わ、私を官吏に正妻として嫁がせます…か。」と言って、すぐ首を振って「いや、私のことを心配するではなく、きっと殿の一生の手伝いとするつもりでしょう。皮肉を言う必要がありますか」と反対した。

「ずっと前から浣碧のことを考えてるよ。私だけではなく、父親でもちゃんと考えた。ただ言わなかっただけ。いくら有能であってもいつか他人に嫁ぐ、で、流朱のような親しい召使であっても良い縁談を作りたいのだ。私を軽蔑しないで。」と私が答えた。

浣碧は馬鹿のように呆然としていて、「本当ですか?」と聞いた。

私は驚いた振りをして、問い返した。「さもないとどう?あなたを妾として殖民に嫁がせるか。私が嫁ぐ前に、父親が丁重に浣碧をいい家柄に嫁がせると言いつけてくれた。私も丁重に承諾した。これはあなたを連れてきた原因だよ。でないと、召使のお嫁になることにすぎないだろう。悔しくない?」こう言って、私は思わず感傷的になった。「あなた、求めるのは身分に過ぎないだろう。」

(译者:李余鑫)

☆☆☆

私は身を伏せた浣碧を起こし、ため息をついた。

「ここには二人だけおるから、私のこと、お嬢様より、お姉様と呼ぶほうがいい。」

浣碧の目は涙で潤んだ。

「呼んでくれぬか。私がそなたのことをどう思うのか、分かってくれるはずじゃ。思えば、わが姉妹の気詰まりは、そもそも先代から受け継がれたものじゃ。」

私は浣碧を座らせた。

「さぞやお辛いじゃろう。同じ父上なのに、お名前がうちの系譜に記されず、『玉』という輩字(はいじ)[4]も授けられず、況してやお母さんの御位牌もうちの祠堂(しどう)に奉安されぬ。されど、父上は真にそなたをかわいがっておられる。女官の身でありながら、私はそなたを妹にあつかうわ。」

一瞬沈黙があった。浣碧は唇を噛んだ。

「なれど、亡き母のことを思えば、自分のことを思え…いや、私も入内できれば、父上は必ずや私のことを認めてくださり、母の位牌も祠堂に祀られるのでは。」

浣碧は目を上げた。

「貴方は『玉』の字が俗臭であるとお気にいらぬがゆえ、思うがままにお捨てになりました。その一文字はわが手の届けぬ鏡花水月でございまする、とご存じでしょうか。」

「なんという甘いのじゃ!入内してご寵愛を被る際、御方々に恨まれて、お母さんは罪人の娘であることが暴き出されるならば、いかなる運命が待ち構えておるかと思うか。わが一族は側杖を食うのじゃ。而も罪人の娘を囲う人は流刑三千里に処されるとか。父上はお年もお年なので、その苦しみに耐えられるのか。娘であるそたなは心配じゃないのか。」

 私は一呼吸置いて言った。

 「さて、曹婕妤に身を寄せておるがゆえ、万が一の際にあやつは必ずやそなたを庇ってやると思うかい。」

(译者:徐仕佳)

☆☆☆

浣碧は申し訳なくて悲しそうな目で私を見上げた。すると一滴の涙が私の腕に落ちた。暖かい感じがした。「お姉さん」浣碧は泣きながら私を呼んだ。

 「姉さんって呼んでくれるのはどれだけ待ち遠しいことか」それを聞いた私も思わず涙を流した。

 「お姉さんが私のことをこんなに思ってくれているなんて知らないから大間違いをしたんです。私のせいでお姉さんを困らせ、申し訳ありませんでした。今後はきっとお姉さんと一心になります。」浣碧は泣きながらそう言った。

 「玉姚は体が弱く、玉娆は未だ幼い。お兄さんも戦場で戦っているので、甄家で頼られるのは私とあなたしかないの。もし私たちの間でも誰かにそそのかされて仲を壊したら、甄家はもう何の望みもないのだ。」そう言いながら私はため息をついた。

 浣碧は思わず大声を出して泣いた。「お姉さんの教えを裏切ってしまいました。無知なことを許してください、おねえさん。」

 「おかあさんのことは華妃たちに話したことがないでしょうか。もしすでに彼女たちに知られたら、恐らく今後は大きな困りとなるでしょう。」

 浣碧は首を振りながら言った。「話したことが無いです。数ヶ月前、母親の誕生日の時に、上林苑で泣いているのを曾婕妤に見られました。彼女はお姉さんにいじめられて泣いていると思っているらしいから、私に近づいたんです。私はただ陛下の注意を引き寄せるために彼女と華妃に近づいたのですから、お姉さんを陥れようとしているのではありません。それにこんなに大事なこと、簡単に彼女たちに教えるわけにはいきません。」

 私はうなずいた。「それは幸いです。あなたの願いは、彼女たちがかなわせるかどうか分からないが、私はあなたの姉さんだから、必ずかなわせる。」

 その後、華妃や曾婕妤とのことをもう少し聞いて、槿汐を部屋の中へ呼んできた。

(译者:冯佳祺)

☆☆☆

私は彼女に微笑んだ。

 「槿汐、信頼できる人って言えば私の周りに君の右に出るものはいない。でもね、ずっと疑問に思っているの。私との付き合いがわずか一年余りに過ぎないのに、なぜこんなに忠誠を尽くしてくれるのかしら。」

 「主人様は人と人との縁を信じていらっしゃいますか。私めは信じておりますから。」

槿汐は微笑みながら平然とした目つきで言った。

「確かにいい理由ね」と私は思わず笑った。「誰でも自分なりの世渡りの理由がある。どんな理由であれ、君の心が忠実さえでいてくれれば、それでよい。」

私は微かにあくびをした。華妃が殿下に叱責されて以来、私は馮淑儀との付き合いが順調なうえ、皇后の後押しもあるため、陵容とともに地位が次第に安定してきた。しかし、華妃は宮中での年月が長い分だけ勢力が盤根錯節なもので、とりわけその一族の力には決して油断してはいけない。このように後宮では、妃たちが対立の情勢にありながらも互角な状況のおかげて、うわべでは静かで穏やかな日々が続いている。

ただし、眉庄の件は依然として証拠が出ずに難航しており、刘畚が見つからない限り、彼女の自由が許されない。幸いなことに、馮淑仪と私が極力に援助しているし、芳若も裏で手を回してくれているおかげで、何とか暮らしには苦しまずにすんだ。

秋風が吹き出したこの季節、薄い単衣から伝わってくる涼しさ。寒い感覚ではなく、むしろどことなく和やかな気分にしてくれている。西の窓側にゆったりと横になっていれば、霧雨にけむるかのように、木犀のさっぱりした甘い香りに静かに包まれ、酔いしれそうにもなる。

しばらく寝たら、内務府総監督の姜忠敏が自ら挨拶に伺ってきた。咎められた黄規全の後任として内務府の第一人者に取り立てられたのは誰のおかげかぐらい、彼でもよく分かっている。そのため、下役までにいっそう棠梨宮の機嫌をとっており、腹を割ってまで私の抜擢に恩返ししようとしてくれている。

しかし、今日の姜忠敏はいつもよりも増して興奮気味だ。真っ赤な錦に覆われたお盆を非常に注意深く進呈してくれるその姿を見て、私は思わず失笑した。

「なによその慎重ぶり。途轍もなく凄いものでも持ってきたのかしら。」

「殿下がわざわざ主人様に賜りましたお品物でございます。ご覧になればお分かりです」と姜忠敏は喜色満面で答えた。

(译者:李睿悦)

☆☆☆

靴底をなしている菜玉[5]は藍田玉の良種で、透き通った綺麗な翠色に優しい手触りをしている。靴の裏地には香料がつけてあり、さらに靴のつま先には親指ほどの大きな合浦真珠がつやつやと光り、周りには色とりどりの宝石と米珠が交わした糸によって鴛鴦蓮荷を配した文様をなしている。そればかりか、表地は金線の蜀錦で拵えてある。「貝錦斐成、濯色江波」[6]と誉められる蜀錦に、金線で織ったものはさらに珍しく、蜀国の女子百人が三年かかってもわずか一匹織りあがり、一寸だけで斗金にも値するという。この紫禁城でも滅多に見えないし、むしろそれでつくった靴なんて、贅沢の極みである。

それを受けとった私は微笑んでお礼を言った。「御恩賜に浴して拝謝いたします。恐縮ですが、これを拵えた蜀錦は何方様が送っていらっしゃったのでしょうか。確か蜀国の貢ぎ錦は毎年の二月でしたよね。今年はすでに皇后様と皇太后様のところに送られたそうで、新しいものなら来年の二月に届くはずでしょう。」

「これこそ小主様への御殊恩でごさいますね。」姜忠敏が稽首して答えてくれた。「実はそれは、清河王様が蜀国までお遊びにいらっしゃられた際に、新織文様の蜀錦をお見かけになられ、遥々使いを差し向け送らせたものでございます。これは殿下が針工局に命じて作らせた、たった一匹でございます。」

私は「あっ」と一声もらすと同時に、清河王様と太液池で巡り合ったあの日以来、一ヶ月余りも経たものだと、ふと気づいた。まあ、それも良い。そうでなければ、あの人がお城を出入りしたりするたびに、あの衿纓のことが思い出される。口に出されたことのない、あってはいけない恋を、やはり思い出さない方がましであろう。

ただ、怖いだけなのだ。こうした得体の知れない恥ずべき恋が。だから、私はこの感情に気づかぬふりをする。『山鬼』はもとより、それほど関係のない屈原の『離騒』や、『九歌』や、『湘夫人』までも見ないようになってしまった。あの恋のことも詩書と同様にほこりを被らせ、何物も知らない女でいたら幸せになれるだろうと思った。

だが、想像せざるを得なかった。 しとしと夜雨が降っている蜀国の巴山は、一体どんな風景になるだろう。私は城の片隅で李商隠の詩を手にし、四角く囲まれた紫禁城の空を眺めながら、頭だけであの遠くにある景色を描いてみるしかほかならない。

そのようなことを思いながらも私は瞬時に微笑み、椅子から立ち上がり、姜忠敏の後ろから歩いてきた玄凌を迎えた。その靴を眺めている私を見て、玄凌は気分良さそうに言った。「履いてみないか。」

私は後室まで行って靴を履きかえてきた。 「両足を夫以外のものに見せるべからずと言われていても、少し慎みすぎではないかなあ。」と玄凌は笑った。

私は俯いて微笑みながら「綺麗ですか」と聞いた。

「君の足にぴったりだ。言いつけた通りに作ってある。」

「え?」と私は顔を上げた。

「四寸二分と針工局のものに伝えたが、やはりその通りだったようだ。」彼は私を抱きしめながら言った。

私は一瞬ちゅうちょして、彼に尋ねた。「足の寸法は申し上げたことがないはずですが。」

彼は大笑いして、「何日も同衾したからには、それぐらいは知っているよ。」と言い、そして「それに、特別に綉工たちに鴛鴦を……」と続けたが、最後まで言わなかった。

私は窓の方に顔を向けた。窓の底側から風が吹い込み、薄霜のような寒さは秋の空気に漂っている。私ははっとし、彼の気持ちに気づいてしまった。無論、感動はしている。ただ、眉庄を見舞いに行ってきた後、何となく疎んじていることに、彼は気づいたはずだ。

(译者:郭铭超)

☆☆☆

私は、「いいえ、嘆いていませんわ。陛下。」と軽く言った。

玄凌[7]は恐れているるか、焦っているかのように、顔に驚きを浮かべた。そして、私の手をつかみ、「嬛嬛[8]、朕と二人きりの時、「四郎」と呼んでいいと言っただろう。忘れたかい。」

「嬛嬛が言い間違えました。実は、不安ですから。」と私が頭を振った。

彼は黙って、私を抱きしめた。その体の温かさは秋の寒気を少し取り除いた。それからやさしい口調で言った。「不安なんかいらないよ。約束したこと、必ず果たしてやるから。守ってやるよ、嬛嬛。」

寝返りして、あの日の杏の花と寝物語を思い出した。御書斎での承諾は温かい春風のように、私の心を撫でて、その温かさで、涙をこぼしそうになった。

やはり涙がこぼれなかった。ただ彼の暖かくてすらりとしたくびを抱きしめた。

彼が私を特別な存在としているのは、本当のことかもしれない。私への甘やかしの中に、少しでも愛情があるとしたら満足で、これ以上求めることはない。

真夜中に、服一枚を加えて外にでたら、もやが立ち込めている。満天の星が静かな空に光っていて、まるで小さな宝石のようで、その輝きは驚くほどまぶしい。私は玄凌に優しく抱かれて、彼と共に西窓の下で瞬いている二本の蝋燭の芯を切る。「都は晴れた空だけど、六弟[9]からは手紙が来て蜀中[10]が雨が多いと言っていた。幸い泊まっている巴山[11]は、夜雨の美景のあるところだから、旅の疲れも美しい景色で取れるや。」

私は静かに、微笑みながら玄凌の胸に抱かれているだけだ。「何か当に更に西窓の燭を剪り、却つて話らん巴山夜雨の時なるべし」。[12]玄凌のそばにいるこの時間は、詩のようにうるわしい。玄凌は何も言わず、柔らかい姿の影を私の影と重ねた。その瞬間、一つになった影は心の琴線に触れた。あの薮茗荷の香りにしみた人は巴山の夜雨の中に一人ぼっちでいるかどうかは、もうどうでもいい。玄凌が私のことが本当に好きでさえあれば、安心する。

(译者:王玥)

☆☆☆

顔を赤らめて、「綺麗ごとばかり言ってね!陛下が君を連れて行ったら、静かになるでしょう」。

 談笑のうちに、周寧海が入った。彼の後ろに従僕の宦官二人が恭しくと挨拶をした。「甄婕妤さま、安美人さま(婕妤と美人は帝王の妃賓の称号である)、よろしゅうございます!」と。

 陵容と私が愕然して、「あら、周公公がお見えになったのは何ことのためでしょうか。」

 周寧海が目を細めて、ニコニコしながら緩やかに言った。「華妃様が蜀錦二匹を得ました。言えばそれは清河王が蜀にいた頃に手作りしたものでしょう。華妃様はその薄い色が気に入って、甄婕妤と安美人二人に衣服を新調しました」。

 宦官の一人がその衣服を捧げ持ってきた。その勢いはなんらかの拒否できぬ意味を持っている。多少意外なことだが、「華妃様の賜り物をお受けいたします。槿汐、収めなれ」と言った。

 槿汐が衣服を捧げたまま隣に退き、「婕妤さま、この衣服は柄が上品で、細工も良い。ただ、この前いらっしゃった通明殿の法師様のお話をまだ覚えていますか。婕妤さまの命には、五行の火との相性が悪い。火とぶつかると、是非が付きまといやすくなる。だから、婕妤さまは安易に赤色の衣服を着用できませぬ。とりわけ、この鮮やかな深紅色は、たぶん一年間経たぬと、なかなか身に着けることはできぬ」。

 それを聞いて、周寧海は作り笑いを浮かべながら言った。「槿汐、お前が言いたいのは、華妃様からいただいたこの衣服は、甄婕妤が着られぬということか!甄婕妤が陛下のご寵愛をいただいて以来、陛下以外の人を気にする暇もございませぬよな!華妃様がよく言うことだが、体がまっすぐなら、影が斜めになることも無論ありえぬ。法師様の言葉は信じるが、華妃様のご恩恵が必ず甄婕妤に大いに裨益あるに違いございませぬ」。

 その衣服は深紅色の生地に、銀色の糸で月光を浴びた花の刺繍がある。ふと見ると、なぜだか心が柔らかくなった。どうにも断れぬようなので、笑いながら周寧海に言った。

「槿汐もまったくの善意から言っただけです。周公公は気にしないでください」。

 それを聞いて、周寧海は笑いを浮かべて言った。「十月の観菊の際、ぜひこの衣服を着用したまま、お越しくださいますように、と華妃さまがおっしゃったのです」と。

(译者:翟梦琪)


[1] 淑儀、婕妤、昭儀、修容、貴嫔:後宮の女性の身分。清朝の後宮は皇后、皇貴妃、貴妃、妃、嫔、貴人、常在、答応、と七つの等級に分かれているが、この小説は歴史に架空しているため、淑儀、婕妤、昭儀、修容、貴嫔など清朝に属していない後宮身分も出てきている。

[2] 小説の中の皇帝の名前。

[3] 良き人:「良人」とも書く。中国の中で「夫」という意味。

[4] 家の親等序列をあらわす特定の字。中国では、同族で同世代の人が個人名(通常二文字)に一文字の「輩字」を共有する。「輩字」を与えられることはその家の一員として認められることを意味する。

[5] 菜玉(さいぎょく):玉の一種。白菜のような薄い緑色で名付けられ、素質は珍しくて壊れやすい。「扳指(親指にはめる清王朝の男性の装飾品)」によく使われる。

[6](蜀錦は蜀江の水で糸を染めて織ったと伝えられるところから)貝が陽子江水によってこそ綺麗に出来上がったように、蜀錦は江水に洗ってこそ透き通った色で素晴らしい。

[7] 皇帝の名前、発音は(Xuanling)

[8] 妃の甄嬛(zhēnhuán)。皇帝が嬛嬛(Huanhuan)と呼ぶ

[9] 皇弟玄清(Xuanqing)

[10] 今の四川省中部。

[11] 四川省にある山。

[12] あの西向きの窓べで、お前と二人夜更けまで灯心を切りつつ語りあうことが出来るのは、何時のことか。その時こそ巴山に雨が降る今の私の心を語りあえるのだが。この詩、一首全体が妻に語りかける手紙のように構成されて、夫のやさしい愛の囁きと言った詩であり中国詩としては珍しい内容のものである。

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